研究概要 |
HIV-プロテアーゼの結晶の大型化に取り組み、体積0.23mm^3結晶が得られた。そこでこの結晶を用いて原子力機構IJRR-3のBIX-4にて予備的な回折実験を行った。その結果、最高で3.5Åの回折点が観測された。この結果は、結晶体積から推定される分解能よりもさらに良好な値であり、2mm^3以上の体積の結晶が得られれば、2.0Åを切る高精度の回折データが測定可能であると判断できる。サンプルの追加調製を行って、引き続き大型結晶の作成に取り組んでいる。 一方で、HIV-プロテアーゼの結晶は通常薄い板状に成長するために、結晶体積を大きくするためには、成長方向のコントロールが必要と考えられた。まず、X線結晶構造解析の座標データから得られる分子配置と結晶の見かけの成長方向との関係を解析した。その結果、結晶の成長が遅い方向(結晶が薄い方向)が、c軸方向と一致した。c軸方向からみた分子間接触部位の面積は、aおよびb軸方向に比較して小さく、特に炭素原子の接触が少ないという特徴があることがわかった。この結果はc軸方向には疎水的な相互作用が薄いことを示す。そこでc軸方向の分子間接触部位に存在する2つのアミノ酸残基(Thr-12およびSer-37)を疎水性の高いアミノ酸(Val, Leu, Ile)への置換を行った。相互作用を強化した変異体6種を作成し、結晶化を試みた。その結果、すべての変異体で結晶が得られたが、4つの変異体で、結晶の外形に改善が見られ、より厚みが増した結晶が得られた。ことは、c軸方向の結晶成長を促進することに成功したことを示している。これらの変異体の結晶をXに供したところ、変異体T12V/S37Iについては、野生型と同程度の高い分解能の回折データを得ることができた。今後、変異体T12V/S37Iの大量調製と大型結晶作成に取り組む予定である。
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