研究課題
生存圏における物質循環を計測しようと考えた場合、生態系における生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(微生物)の三者を系として扱える事が望ましい。申請者はシロイヌナズナをはじめとする植物の代謝研究を高分解能NMR法で遂行する方法論を開発し、世界で初めて多次元NMRメタボロミクスを提唱した。その鍵となる技術は生物個体への均一安定同位体標識化であり、放射性同位体と異なり動植物でも安全な安定同位体の動向を追跡する事により、生物間を渡る代謝産物の物質循環計測が可能となる。今年度は従来のシロイヌナズナに加えて、イネ、小松菜、ニンジン、ツルムラサキ、大豆、金時豆といった幅広い植物の^<13>C均一標識化を可能とした。さらに、これらの中でも成長が早くバイオマスとして多く収穫可能な^<13>C-小松菜を用いたマウス餌を作成する事により、マウスへの安定同位体標識化も可能となった。マウス代謝ゲージを用いた尿や糞の^<13>C-HSQC計測からは、非標識時の10倍以上もの交差シグナル観測が可能となっており、狙い通り生産者から消費者への代謝動態が追跡できた。同様の^<13>C-植物摂食の試みは、オオシロアリを用いて行なった。これはセルロースをはじめとする難分解性高分子の分解者としての評価である。^<13>C-小松菜から作成した^<13>C-セルロースをオオシロアリに摂食させると、腸内原生微生物等の作用により、酢酸をはじめとする有機酸に分解代謝されていく事がわかった。一方、異種核多次元NMR計測のための均一安定同位体標識技術も高度化し、前述の高感度NMR装置を利用して1000以上もの^<13>C-HSQC相間シグナル(予想代謝物数300-400程度)観測が可能となった。これらを物質同定するJavaソフトウエア、SpinAssignの開発も進行している。これらの成果は次項以降の発表に加え、現在2報の原著論文、3報の総説として執筆中である。
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J.Magn.Reson. 174
ページ: 33-41
Biotechn.Agri.Tech. (in press)
Prot.Pept.Lett. (in press)