本研究は、汽水生沈水植物の日本国内における遺伝的集団構造とその成立要因を明らかにするために、国内での分布状況を調査し分類学的再検討を行った上で、新たに開発したDNAマーカーを用いて集団遺伝学的解析を行おうとするものである。カワツルモ科カワツルモ(Ruppia maritima L.;Ruppiaceae)は汽水域に生育する多年生の沈水植物で、カモ類などの渡り性水鳥にその種子が捕食されることや、その排泄物中の種子が発芽することが多数報告されていること、また日本国内において、それら渡り性水鳥の渡り経路とカワツルモの分布域が重なっていることから、水生植物の広域分布と隔離された集団特性を明らかにする上で適した植物である。しかし、外部形態の変異が大きく識別形質に乏しいことから分類学的に十分整理されておらず、その自生状況も明らかでなかった。そこでまず、日本国内における自生状況の把握、分類学的な再検討を行うことにした。 18年度は、カワツルモの染色体数および葉緑体DNA塩基配列情報を調査した。その結果、佐渡のネジリカワツルモが2n=20、熊本・小笠原父島・沖縄本島・久米島のカワツルモが2n=40、石垣島・中国・海南島のカワツルモが2n=20であることが明らかとなった。このうち、ネジリカワツルモの2n=20、カワツルモの2n=20はアジアからの初記録となり、2n=40のカワツルモは、三重・愛媛・広島・韓国蔚山以外のものとなった。 分子系統解析から、大きく2つのグループを認識でき、一方のグループにはさらに2つのサブグループを認識することが出来た。外部形態形質を評価すると、一方はネジリカワツルモに、他方はカワツルモに当たると考えられ、さらに後者に認められた台湾、香港などからなる一方のサブグループは、変種R.maritima var.pacifica Fosberg & St.Johnと考えられた。 さらに、イトクズモZannichellia palustrisについて、国内の生育状況を調査した。 標本調査により、世界各地のRuppiaおよびZannichelliaの分布と変異を調査した。
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