研究概要 |
本研究は、汽水生沈水植物の遣伝的構造とその成立要因を明らかにしようとするものである。そのモデルとして、カワツルモ科カワツルモ属およびイトクズモ科イトクズモを用いた。 これまでの分類から、全世界のカワツルモ(Ruppia matitima)とヨーロッパからアジア北部のネジリカワツルモ(R.cirrhosa)、北米及びアジア北部のR.occidentalis、南米の高山地帯のR.fillifolia、オセアニアのR.megacarpa、 R.polycarpa、 R.tuberolycarpa、R.tuberosaが認識できる。これを基に、アジア・オセアニア・ヨーロッパ・北米の材料を用いた葉緑体DNA及び核DNA(フィトクローム遺伝子群)分子系統解析からは、アジア北部に分布するネジリカワツルモとオセアニア南部に分布するR.megacarpaから成るクレードA,それぞれオセアニア南部に分布するR.tuberosa、R.polychrpaから成るクレードBとクレードC、そしてアジア・オセアニア・ヨーロッパ・北米に広く分布するカワツルモとR.occidentalisから成るクレードDの4つが支持された。また、クレードDには2倍体・3倍体・4倍体が含まれており、それぞれがサブクレードを形成した。これらの結果は、従来の分類学的研究をおおよそ支持しているとともに、外部形態形質からも同ー種の可能性が高い南北極地域に隔離分布となるクレードAや倍数性の見られたクレードDなど、新しい分類群の設立の必要性が生じた。以上より、染色体の倍数化と鳥媒介による広域散布によって現在のカワツルモ科の遺伝的構造が形成されたことが明らかになった。 イトクズキ科イトクズモ属は、形態、染色体数、葉緑体DNAの解析から、国内にこれまで認識されていない2分類群が存在することが明らかになった。 以上から,汽水生沈水植物では,散布範囲が広く広域分布種が多い一方で局所的な種分化が起きていることがわかった。これらの保全を考える際には,形態とDNA,染色体情報を用いた種の同定を行うことがまず必要である。さらに今後は,各分類群内の遺伝子流動を把握する必要がある。
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