平成17年度には、合衆国における人種差別撤廃やマイノリティの地位向上の試み、特に公民権運動へのユダヤ系アメリカ人の参加やその際の黒人との関係に関して、特に以下の研究を行った。 1.1940年代後半におけるユダヤ人諸団体の高等教育機関における「割当制」廃止運動の展開を検討した。この活動はユダヤ人に対する差別を廃することのみを目的とせず、すべての人種・宗教による高等教育機関への入学における差別をなくすことを目指していたものであり、当然に黒人に対する差別や人種別学への反対もその中に含まれていた。また、このようなユダヤ人の「カラー・ブラインド」志向は、NAACP(全国黒人地位向上協会)による人種隔離教育制度撤廃訴訟の支援にも現れている。彼等は、黒人志願者の側に立って、いくつかの大学院やロー・スクール訴訟に「法廷の友」ブリーフを提出したのであった。この間の経緯については、単著論文「アメリカ合衆国の高等教育機関における『割当制』廃止運動とユダヤ人団体-1948年ニューヨーク州公正教育実施法を中心に-」として『歴史学研究』第800号に発表した。 2.交付申請書においては、1950年代後半から1960年代にかけてのアメリカ合衆国北部における人種隔離教育撤廃の動き、公民権運動の成果のひとつである1965年移民法改正(移民の国別割当制の廃止)に関する二次資料の収集と分析を行う予定としていた。この課題に関する一次資料は日本国内に所蔵はないとほぼ推測されるため、アメリカ・ユダヤ人委員会(ニューヨーク市)など在米ユダヤ人諸団体の資料室やニューヨーク公立図書館において、2週間程度の資料調査・収集を行った。ただし、今回の出張調査では1952年移民法(マッカラン=ウォルター法)改正についての資料が大量に発見されたため、そちらの収集作業を中心に行った。したがって、1965年の移民法についての資料調査と収集は、平成18年度に引き続き行いたいと考えている。
|