平成18年度には、合衆国における人種差別撤廃やマイノリティの地位向上の試み、特に公民権運動へのユダヤ系アメリカ人の参加やその際の黒人との関係に関して、特に以下の研究を行った。 1. 1940年代後半におけるユダヤ人諸団体による高等教育における差別撤廃運動の展開について検討した。この活動は、ユダヤ人に対する差別をなくすことのみを目的とせず、すべての人種・宗教による高等教育機関への入学における差別をなくすことを目指しており、当然に黒人に対する差別や人種別学への反対もその中に含まれていた。また、このようなユダヤ人の「カラー・ブラインド(=肌の色の違いを無視する)志向は、NAACP(全国黒人地位向上協会)による人種隔離教育制度撤廃訴訟の支援にも現れている。彼等は、黒人志願者の側に立って、公立学校における人種別学を違憲と判断した1954年ブラウン判決を支援し、その他いくつかの大学院やロー・スクール訴訟にも「法廷の友」ブリーフを提出するなどの活動を展開した。この間の経緯については、単著論文を発表した。 2.交付申請書においては、1950年代後半から1960年代にかけてのアメリカ合衆国北部における人種隔離教育撤廃の動きのうち、公民権運動の成果のひとつである1965年移民法改正(移民の国別割当制の廃止)に関する二次資料の収集と分析を行う予定としていた。この課題に関する一次資料は日本国内に所蔵はないとほぼ推測されるため、アメリカ・ユダヤ人歴史協会(ニューヨーク市)やアメリカ・ユダヤ人アーカイブス(シンシナチ市)などにおいて、2週間程度の資料調査・収集を行った。ただし、今回の出張調査では、合衆国におけるほぼ唯一で最初の世俗的ユダヤ人大学であり、ユダヤ人諸団体によって高等教育における差別の問題と並行して議論されたブランダイス大学の創設に関する資料も発見されたため、そちらの史料収集作業も行った。したがって、1965年の移民法についての資料調査と収集は、平成19年度にも引き続き行いたいと考えている。
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