本研究の目的は、1.和平合意後の紛争当事者の追跡調査、2.中東イスラム社会とフィリピン南部とのネットワークに関する予備的研究、の2点である。本年度は、1.2.の目的に関して、具体的に次の作業をおこなった。 1.に関しては、フィリピンの主要紙であるPhilippine Daily Inquirerのなかから、2000年に発生した暴力事件に関する記事を抽出する作業をおこなった。これにもとづき、来年度に、それらの暴力事件に関わる紛争当事者の動きを分析する予定である。 2.に関しては、エジプトの首都カイロにおいて、アラビア語の習得につとめる一方、フィリピン出身のムスリムにインタビューを行った。その結果、次のようなことが分かった。(1)アズハル大学には、400〜500人のフィリピン・ムスリムが在籍し、彼らの多くがPhilippine Student Associationに属していること。(2)アズハル大学に在籍するフィリピン・ムスリムの大多数が、サウジアラビアでのメッカ巡礼やオムラ(小巡礼)を通じて、広くイスラム社会と交流を深めていること。(3)アズハル大学卒業という学歴が、フィリピン・ムスリム社会では高いステータスシンボルとなるため、彼らは、それを活かして政治家を目指す学生がいること。(4)中東イスラム社会とのネットワークや、アラビア語の能力を活かしてビジネスを展開しようとする学生がいること。
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