1.カップル単位の意思決定について、経済学等の文献を収集し、ゲーム理論に基づくモデルを検討した。家族の経済学的研究においては、2者間交渉モデルを用いて定式化されたモデルが多数提唱されている。それらの多くは、交渉決裂時に予想される各プレーヤのwell-beingを、交渉力を決定する主たる要因とみなしている。家族内の人的投資は、この要因をおおきく規定するため、特に重要である。この点は、マルクス主義フェミニズム・近代経済学の双方がとりあげてきたアンペイド・ワークの問題について定式化をあたえる手がかりになるものである。そのほか、プレーヤの社会的地位によって、伝統的価値に支えられた権力が問題になる場合があり、これは家族社会学における「家父長制」の概念に対応させることが可能である。また、近代家族規範のもとでは家族メンバー間の効用の重なりが制度化されており、このことが家族の意思決定に独特の特徴をあたえている。 2.家族メンバー間の効用の重なりを前提とする制度は、家族内での不平等を見えにくいものにすると考えることができる。現代日本において、この制度を支える規範がどのように形成されているかを、家族法および家族関係判例を参照しながら検討した。また、家族内での平等をどのように評価すべきかについて、法学・公共哲学等の分野における分配的公正に関する文献を参照し、またそれぞれの領域の専門家と議論しつつ、評価基準の検討をおこなった。 3.政策文書や研究論文について最新の情報を効率的に収集するため、インターネット上のファイルを検索して自動的に要約するコンピュータ・プログラムを開発した。英語文書のPDFファイルについては、実用にたえるプログラムができている。さらに、データの収集と並行して、プログラムの改善と日本語への対応をすすめた。
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