「アフターケア倫理」は、まだ姿形のない概念である。今年度は、それに形を与える作業を中心に行った。その成果が、「忘れられた正義の復権 臨床研究におけるアフターケア倫理の構築」(『モラリア』第12号、東北大学倫理学研究会)である。本稿では、臨床研究の倫理を事前・事中・事後と分けてみた場合、事後の倫理への視座がいかに忘れられているかを指摘し、今後の指針として「研究の公正さの保証書」と「事後問題解決プログラム」の二つを提案した。前者は、臨床研究終了後に発行される、research misconduct(研究不正行為)がなかったことを保証する証明書の意味である。後者は、金銭的補償以外の様々な事後問題を解決するプログラムの意味である。 後者の問題を現実化させるために、補償以外の事後問題としてはどのような問題があるのかの調査・発掘に努めた。臨床研究の現場で働くCRC、保健師、医師、薬剤師、看護師などとコネクションをつけ、研究協力を依頼した結果明らかになったことは、日本では治験において実際に補償がなされたケースが極めて少ないこと、治験以外の臨床研究では補償制度さえ整っていないこと、従って当然ながら補償以外の事後問題への対応はほとんどなされていないということであった。 臨床研究の倫理では、何よりもパーソンをケア・保護することが重要である。そのために、『無私と人称 二人称生成の倫理へ』(東北大学出版会)を出版してこれまでの研究をまとめあげ、臨床研究の倫理で保護される人(person)を人称(person)の観点から再検討するための理論的基盤を整えた。
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