第25回日本医学哲学・倫理学会大会において「臨床研究におけるアフターケア倫理の構想」というタイトルで研究発表を行った。この発表では、まず、臨床研究の各種ガイドラインには事後に関する規定がほとんどない事実を確認し、今後倫理的に対処すべき事後問題としてはどのようなことが考えられるかを提起した。その提起した問題の中から補償と被害者の感情へのケアの問題を取り上げ、なぜそれらの視座を欠くことになったかの理由分析を試みた。そして生命医療倫理原則のうちの正義原則とパーソン尊重原則の再解釈から、補償と被害者のケアが必要であることの倫理的根拠が導出可能であることを示し、最後に、アフターケア倫理の基本理念として「バランスをとりつつ、つなぐこと」を提示した。この発表は、H17年度に発表した論文「忘れられた正義の復権」の内容を受け、「アフターケア倫理」の具体的内容をさらに深化させることを目指したものである。 臨床研究で起こる健康被害にいかに倫理的に対処していくかは、アフターケア倫理の中心課題である。その問題を総合的に討論するために、本研究代表者は「被害のあと医療におけるケア・補償・責任」と題した公開シンポジウムを企画・準備し、平成19年2月3日仙台において開催した。シンポジストとして招いたのは、川田龍平(薬害エイズ訴訟原告)、長谷川剛(自治医科大学)、小原泉(国立がんセンター東病院)、辻純一郎(J&T Institute Ltd.)であり、モデレーターは清水哲郎(東北大学)に依頼した。本研究代表者はシンポジウムで企画趣旨の説明と総合司会をつとめた。シンポジウムでは薬害被害者、医師、CRC、法学者そして参加した市民などから様々な見解が出され、被害のあとすべきことに関して活発な討論が交わされ、医療・医学において事後の視座を根付かせるための確かな一つの契機となった。
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