類比概念をキーワードにアリストテレス哲学、古代〜初期近世哲学史、現代の倫理上的諸問題に関し新たな知見を提示する、という大目的のもと、本年度はその基礎的作業として、上記に関する諸文献の収集・講読、および研究者との議論を国内外において行なった。それにより、主に以下の成果を産み出した。 1.アリストテレスの身体理解に関し、技術と有機体の類比により議論が展開される『デ・アニマ』B1の分析を通じ、彼の身体理解には元素の本性を基礎とする<物質としての身体>と、魂と事実上同一性を保持する<直近質料としての身体>という対照的な二つの視点が存在することなどを示した。(北海道大学哲学会編『哲学』第41号に掲載) 2.アリストテレス心身論の機能主義的解釈の妥当性を検討し、(1)いわゆる「多重実現可能性」解釈が強引であること、(2)心身関係が技術的事象からの類比により適切に理解可能とする姿勢そのもののうちにアリストテレス流の機能主義的視点を見出し得ること、などを示した。(関西哲学会第58回大会で発表) 3.インフォームド・コンセント(IC)においてナースが果たし得る役割について、患者への「説明」という場面への注目を行ないつつ検討を加え、(1)ナースは患者-医師間のICに関し媒介的・補完的役割を担い得ること、(2)従来ナースの大半が女性であった経緯に関連する偏見などへの注意が必要であること、などを示した。(神戸大学哲学懇話会編『愛知』第17号に掲載) 来年度は引き続き以上の作業を発展させつつ、アリストテレス心身論の精査、類比概念の哲学史的系譜、末期医療をめぐる倫理的問題の検討などを進める予定である。
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