1、平成17年度実施のフランスにおける調査では、下記の事項を確認した。 (1)美術商ジークフリート・ビングは、1888年にパリの国立工芸学校に48点の日本陶磁器と蜷川式胤著『観古図説陶器之部』(仏語版含む)を寄贈した。今回の調査では、これらの陶磁器および書物を実見する機会を得たが、陶磁器の中には、いわゆる優品と呼べる作品が少ないことが判明した。またこれらの陶磁器の中には、アーレンス商会のマークが入ったものが見られなかった。よってアーレンス商会が製作に関わったとされる日本陶磁器については、更なる調査が必要である。 (2)ビングは、19世紀末にパリ装飾美術館にも『観古図説陶器之部』(仏語版含む)を2部寄贈している。今回の調査でそれを確認したところ、とりわけその仏語版には、ビングが加えたと思われる赤色鉛筆での線引きが多数見られた。この事実は、後に日本陶磁器に関する論考を執筆するビングが、この『観古図説陶器之部』を大いに参考にしていたことの証左となると思われる。 (3)フランス国立ギメ美術館には、創設者ギメが寄贈した『観古図説陶器之部』が現存する。またフランス国立東洋言語文化学院にも、19世紀後半に同学院の学長を務めたシャルル・シェッファーが寄贈した『観古図説陶器之部』が現存する。これらの『観古図説陶器之部』は、いずれも第1巻(原書と仏語版)のみであることが共通している。 2、平成17年度実施の京都府立総合資料館における『蜷川式胤日記』の調査では、蜷川がパリの美術商ビングに日本陶磁器を譲渡・販売していた事実があったことを確認した。また、日記の記載の中には判読不可能な文字もあるため詳らかにならない部分もあるが、蜷川式胤が多くの外国人に自身が収集した日本陶磁器を譲渡・販売していた事実があることも分かった。
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