本研究における中国の現地調査として、平成17年8月に仏頂尊勝陀羅尼経と密接な関係のある山西省五台山周辺の経幢、平成18年3月に甘粛省敦煌莫高窟の北宋時代の仏頂尊勝陀羅尼経変、平成19年3月に山東省および四川省で経幢および同経関係石刻の現地調査を実施し、併せて日本国内にある中国経幢の拓本資料、清代以降刊行された金石学関係の文献に記載された経幢の調査・整理をおこなった。その結果、山西省、陜西省、河南省、山東省、河北省、四川省の各地域において、判明する限りでは唐、五代、宋、金、元、明まで各時代の紀年のある仏頂尊勝陀羅尼経の経幢・石刻を確認でき、清代は不明だが、五台山では近現代のものも確認された。これらの地域、とくに華北の地域で幅広い年代にわたり、仏頂尊勝陀羅尼経の信仰が長期間継続していることを示している。仏頂尊勝陀羅尼経の信仰遺物は経幢、墓中・摩崖の刻経、敦煌の変相図だけでなく、経幢を礼拝する人物像の浮彫(四川省綿陽市碧水寺摩崖)など、多岐にわたり、大きさ・形式もさまざまであることが確認できた。 本経の信仰遺物としてもっとも代表的な作品である経幢は、破損して一部分だけが残り、造立当初の場所から移動したものが大半であるが、原所在地を確認できた場合は寺院の中心的殿堂の正面左右に建てられたものが目立って多い。左右で製作年代が異なる例もあるが、紀年のない経幢が左右一対で建てられたものの片方であった可能性が考えられる。 文献によって知られている、唐代の経幢に序文を刻む例が多いという事柄については、2年間の現地調査の実物からは明確に裏付けることができなかった。この問題については拓本類も含めて調査と整理作業を継続し、経序の成立年代の手がかりを追求してゆきたい。
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