平成17年度の研究においては、まず文化理論、美学理論、地域研究の各分野に関する文献の読解作業を通じて、第二次世界大戦後の日本を中心に集団的自己同一性と文化意識の関連の変遷が意味するところを極力広い視点から批判的に分析し原理的に解明する試みをおこなった。その成果の一端は、本年度において刊行された論文「抽象への逃走-脱規範的思想傾向のメタクリティーク」(港道隆編『心と身体の世界化』、人文書院、2月20日発行、に所収)にまとめられたほか、甲南大学人間科学研究所での研究会(「共同体/感性/無意識-戦後日本の意識変容への批判的パースペクティヴ」、11月18日)ならびに京都大学における研究会(「感性の言説化における否定性の介入の諸相」、1月8日)においてそれぞれ口頭発表された。さらに、こうした理論化の妥当性をより広い文脈において検証し共有すべく、アジア地域を中心とする海外の研究者にインターネットを通じて呼びかけと意見交換の誘いを始めており、既に2月にはフィリピンの2名のメディア・アーティストが主催するマニラでのミュージアム・ワークショップ(‘Lost in Cyberspace : A New Perspective?'、2月18日)に参加することで、近代アジアにおける文化伝統と同時代の情報技術とのせめぎ合いの解釈方法をめぐって考察を深めるとともに、東南アジアの芸術の史的展開を現地での調査を通して具体的に観察することができた。
|