本研究は3年計画で行うものであり、装飾文様における「和様」成立の過程について宝相華文様を中心に考察することを目的とする。本年度は初年度にあたり、本研究において活用するための装飾文様データベースを構築し、研究対象とする日本の作例を収集、データベースに登録するとともに、装飾文様の日本的表現様式が成立するまでのおおよその流れを推測した。 構築したデータベースは、美術作品にあらわされた文様を登録する文様DB、作品の基本情報を登録する作品DB、画像を登録管理する画像DB、関係文献を登録する文献DBを相互に関連付けてリレーショナルデータベースとしたものである。現在の登録データは、日本の平安時代の工芸品、絵画、建築装飾、彫刻にあらわされた宝相華文を中心としており、データ数は文様データベース約500件、作品データベース約500件、画像データベース約600件、文献データベース約800件である。 本研究のタイトルにも使用している装飾文様における「和様」をどのように定義するかは今後も検討を要する問題であるが、文様構成単位の表現形式および文様配置から検討した結果、日本的な表現要素は、文様モチーフの流れるようなやわらかさ、アンシンメトリーな文様配置、装飾空間にランダムに文様を配置する散らしの表現にみることができるのではないかと仮説を立てた。装飾文様の日本化は、宝相華文様を中心にみた場合、9〜10世紀に大陸様式を取入れながら少しずつ進み、11世紀にいわゆる「和様」とされる表現様式が完成したものと考えられる。また装飾文様にも文字における漢字と仮名、絵画の唐絵とやまと絵に対応するような大陸風と日本風の文様様式が形成されている可能性が考えられ、次年度にはこの点も合わせて検討する。
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