平成18年度は、主として国内における資料の収集および聞き取り調査に当たった。資料では、『海外新興芸術論叢書 新聞・雑誌篇』全10巻(ゆまに書房)や『築地小劇場』(復刻版)等により、逐次刊行物に掲載された記事を中心に文献調査を進めることができた。また聞き取り調査では、日本の近代舞踊のパイオニアである石井漠ならびに石井小浪の内弟子をしていた舞踊家たちに話をうかがうことができた。特に小浪の内弟子だった舞踊家からは、1923年の石井漠と小浪の洋行についてや、その帰国後から1929年に独立するまでの様子についての貴重な証言を得られた。その証言から、1930年前後とされている中山岩太の写真(石井漠と小浪による「山を登る」)が、1929年以前の撮影であることが判明するなど、『ダンス! 20世紀初頭の美術と舞踊』展(2003年)で取り上げた写真作品の研究を一歩進めることになった。 さらに、「崔承喜の「朝鮮舞踊」をめぐって」(平成15-16年度基盤研究(B)(1)「20世紀における戦争と表象/芸術」(研究代表:長田謙一))で行った研究および、その成果発表(平成17年度研究成果公開促進費(A)「戦争と表象/美術20世紀以後」)は、『国際シンポジウム 戦争と表象/美術 20世紀以後 記録集』(美学出版、2007年刊)として結実した。新たな資料や情報が得られつつあるので、今後さらに崔承喜に関する調査も継続し、本科研による研究の深化につなげたい。
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