研究概要 |
今年度は、国内では東京国立博物館・千葉市美術館・日本浮世絵博物館・西尾市岩瀬文庫・西春コレクション、また海外では大英博物館・ベルリン東洋美術館の調査を行い、大型摺物を中心に、それぞれの江戸狂歌摺物コレクションを調査した。また作品の実地調査は叶わなかったものの、ニューヨークのジョーン・マービスLtd.およびチューリッヒのリートベルグ美術館の蔵品の江戸狂歌摺物の写真および基本情報の供与を得て、作品情報を蓄積している。同時に海外を中心に既に刊行された図録,販売目録類による情報の把握も行い、江戸狂歌摺物、とくにグループ(連・側)によって刊行された作品の全貌の把握を目指して努力している。ただし、その過程で、グループによって、大型摺物を多く出したところと、揃い物が考案されて以来そちらに比重を移したところとがある様子が看取され、双方に目配りしながら調査を進めることの重要性が明らかになった。揃い物を視野に入れて研究しようとする場合、揃い物が揃って所蔵される例はきわめて少なく、一定数で構成される揃い物の各作品の所在の把握がまず問題となる。今後の大きな課題である。 江戸狂歌摺物の傾向として、全般的に狂歌と挿絵双方に古典趣味がみられることが知られているが、上記の調査によってたんなる古典趣味に止まらない研究・注釈史までをふまえた衒学的ともいえる作品構造がいくつかの作品において指摘できることが判明した。なかでも本年はとくに『源氏物語』との関わりにおいて焦点をしぼった研究を行い、その成果を来年度に発表する予定で準備を進めている。 本研究の直接の成果とは言い難いが、本研究、およびこれまでの江戸狂歌研究で得られた知見を生かして、コーネル大学ハーバート・F・ジョンソン美術館の江戸狂歌摺物を中心に構成された展覧会‘Japanese Poetry Prints'展(2006.1-3)に協力した。
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