1 具体的な成立過程の不明な系図集『尊卑分脈』の成立を実証的解明のため、 (1)菊亭文庫本『尊卑分脈』「平氏」の正盛流系図の書き入れの史料性を論じ、未知の古記録による増補が成されてゐる事を明らかにし、『尊卑』内部の記事の増補過程を明らかにした。 (2)長楽寺本『源氏系図』・妙本寺本『源家系図』・内閣文庫本『本朝皇胤紹運録』が同系系図である事を明らかにし、次いで『尊卑分脈』「清和源氏」・北酒出本『源氏系図』他の系図と比較し、長楽寺系系図と他の二系図を遡る系図が南北朝以前に存在した事を明らかにした。 (3)『尊卑分脈』の一部と目される壬生本系図の中、関東清原氏系図の史料的価値を古記録との比較から明らかにし、『今鏡』・『平家物語』注釈の誤りを訂正した。 2 従来、在地伝承を採用して成立したとされる蝦夷安藤氏の系譜が、『百姓縁起』の「四姓系図」よりの引用より成立してゐる事、その「四姓系図」が未知の真名本『曾我物語』の引用である事を『王年代記』等との比較により明らかにした。 3 従来、典拠未詳とされてきた『源平闘諍録』冒頭の桓武平氏系図が、千葉氏の元に伝来した平氏系図に基づくことを総州相馬氏系区・妙見寺本千葉系図・藤井本千葉系図との比較より明らかにした。 4 各種系図の信濃井上氏部や、大和・甲斐・美濃源氏の部を古記録とも併せて、比較検討し、北酒出本『源氏系図』・肥後『宇野氏系図』の史料的価値が比較的高い事を明らかにした。 5 鎌倉後期政治史の中、永仁四年の吉見義世謀反の背景として、名越北条氏と貴種源氏との婚姻関係の存した事を、入来院本『北条系図』より推定した。
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