研究課題
本研究の主眼は、移民文化を特定の言語集団による総体として捉えるのではなく、ある特定の都市空間を仲介として複数の言語集団の混交あるいは交錯がどのように展開されるかを考察する点に置かれていた。都市プラハをその起点として研究を進め、一つの軸を1920年代以降のプラハのロシア難民、もう一つの軸を冷戦体制下におけるプラハから西側社会への亡命者の流れに設定した。この両軸をつなぐ稀有な事例として、ロシア出身で、スイスで没した作家ニコライ・テルレツキーがいる。テルレツキーの作品受容に関してはその複雑な出自も関係して、様々な問題を抱えているが、この点については論考「Recepce Nikolaje Terleckeho v Cechach」(2006)である程度総括的に検討することができたように思われる。これらの事例を踏まえ、難民の位相を総合的に検討したのが論考「〈待合室〉、あるいは難民の滞留空間」(2007)である。ミラン・クンデラの小説あるいはアンゲロプロスの映画などの作品分析を行ないながら、作品の背後に潜む政治的・社会的問題を指摘し、「難民/亡命者」の位相を「待合室」というトポスと関連付けている。今回の研究によって、プラハの都市文化における移民の位相をある程度解明することができたように思われる。しかしながら、今回十分に検討ができなかった問題群(他の都市の関係性、ユダヤ系・ドイツ系住民の位相など)も多々あり、またロマあるいはロシア・ウクライナ系住民の存在が今日のプラハにおいて重要なものでありながら考察が不十分であることから、今後もプラハという都市文化を多面的に検討していく必要があるだろう。
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ヤン&エヴァ・シュヴァンクマイエル展アリス、あるいは快楽原則
ページ: 118-123
Cizi, jin, exoticke v ceske kulture 19. stoleti (Praha)
ページ: 122-125