18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパの社会が封建制から近代市民社会へと変貌を遂げるとき、神、王、父という、それぞれ、哲学(宗教)、国家社会、家族の領域において中心となる絶対的な権力は没落した。これらの前近代的な中心が備え持っていた、神的な性質、すなわち「神性」は、近代という時代にいかなる変容を被っていったかを考察するのが、本研究の目的である。その「神性」の変容に関する考察を行うにあたり、まず、1)近代悲劇作家フリードリヒ・シラーにとって、新たなる「神性」は何を意味したのか、というテーマに関して、本年度は、「神性」と「崇高」と「不気味なるもの」との関わりを、シラーの未完の悲劇作品テクスト『デメートリウス』に即して考察し、その研究内容を日本独文学会において口頭発表した。また、この発表内容に加筆訂正をほどこして、日本独文学会の学会誌『ドイツ文学』において論文として発表した。また、本研究のテーマとして設定した、2)前近代的な「神性」は没落した結果、近代においていかなる性格をもつに至ったか、および、3)18世紀に芽生えた啓蒙思想は、新しい市民社会を形成する推進力となっていったが、そこでは「神性」はどのように取り扱われたのか、という問題に関しては、啓蒙主義の対立項としての、18世紀ヨーロッパにおけるオカルト趣味に着目した。オカルトへの嗜好の根は、人々が抱いていた「迷信」にあると見て、この「迷信」が前近代において、「神的」なるものの表象を担っていたと構想した。「神性」の変容を考察するにあたり、前近代的な「神性」の担い手としての「迷信」を考察する必要が生じたことから、ヨーロッパの「迷信」研究に着手した。また、「迷信」に関する資料収集をドイツ連邦共和国・ドイツ文学文書館にて行った。この文献の読解作業が現在進行中であり、来年度の課題となった。
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