18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパの社会が封建制から近代市民社会へと変貌を遂げるとき、神、王、父という、それぞれ、哲学(宗教)、国家社会、家族の領域において中心となる絶対的な権力は没落した。これらの前近代的な中心が備え持っていた、神的な性質、すなわち「神性」は、近代という時代にいかなる変容を被っていったかを考察するのが、本研究の目的である。その研究主題として、1)近代悲劇作家フリードリヒ・シラーにとって、新たなる「神性」は何を意味したのか、2)前近代的な「神性」は没落した結果、近代においていかなる性格をもつに至ったか、および、3)18世紀に芽生えた啓蒙思想は、新しい市民社会を形成する推進力となっていったが、そこでは「神性」はどのように取り扱われたのか、という問題を掲げている。今年度は、これら三つのテーマに包括的に関わる形で、「魂の不死性」と「神性」との関わりを問うて、シラーの哲学的論考『ユーリウスの神智学』と、小説『視霊者』、さらにまたカントの『視霊者の夢』を対象として研究を行った。その際、「迷信」の対象たる「視霊者」体験が、シラーおよびカントという、啓蒙主義期の思考家たちにとって、その思想の展開上、決定的な転回点をなす様を考察した。この内容は、九州大学における研究会にて2007年2月に口頭発表された。さらにこの研究内容は『視霊者の閾』との表題のもと、2007年度発行の山口大学『独仏文学』第29号にて印刷公表される。前年度着手したヨーロッパの「迷信」研究は、ルネサンスの思想家および図像学研究とに結びつけつつ、さらに発展的に展開させた。そしてこのための資料収集をドイツ連邦共和国・ドイツ文学文書館にて行った。このテーマに関する研究成果は、部分的ではあるが、上記研究発表論文の中に組み込まれた。
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