研究概要 |
本研究はソヴィエト文化の重要な要素と考えられる「こども」のイメージが,スターリン体制下でどのように表象されたのか,という問題を考察することによって,ソヴィエト文化の特質を明らかにすると同時に,全体主義体制,ユートピア,20世紀社会といった主題に対し,新たな解釈を提供することを目的とするものである。 研究の初年度にあたる今年度は問題の所在をより明確にするために,カターエフやアレクセイ・トルストイを中心としたソヴィエト期の児童文学,あるいはヴィゴツキイを中心としたソヴィエトの教育学などに関して概括的な調査を行った。その際,8月末から9月初めにかけて10日間ほどモスクワに赴き,ロシア国立図書館において,日本では入手困難な文献を参照した。これらの作業を通じて,特に「こども」という主題をめぐっての文学と政治との関係,あるいは発達理論を中心とした教育学における「こども」イメージなどについて再確認を行った。 また,前年度まで科学研究費補助金を受けて行ってきた研究「スターリン時代のソヴィエト小説における無意識をめぐる言説に関する研究」をもとに,作家ゾーシチェンコが幼年期を回想した長編『日の出前』についての研究を行い,その成果を論文「ゾーシチェンコと精神分析」として『ロシア・東欧研究』33号に発表した。この論文では,ゾーシチェンコが描く,精神分析や反射学が交差する場としての「こども」像を再確認しながら,それが小説の構成という文学的な手法とどのように関係しているのか,を明らかにしている。
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