研究概要 |
本研究はソヴィエト文化の重要な要素と考えられる「こども」のイメージが,スターリン体制下でどのように表象されたのか,という問題を考察することによって,ソヴィエト文化の特質を明らかにしようとするものである。 研究の初年度にあたる2005年度はソヴィエト期の児童文学について概括的な調査を行い、そこで子供がいかに語られているのかを検討した。2年目にあたる2006年度は,絵画や映画における表象の具体例を研究することを計画していたが,その研究過程で浮上してきた問題として,全体主義体制の中で「子供」のイメージを投影された大人について検討することとした。スターリン時代のソ連においては,社会全体がひとつの家族のイメージでとらえられ,軍やスポーツの世界の英雄も国家の「子」と考えられていたとされる。今年度は,その事実について具体的に確認すると共に,個別の事例における表象の在り方について探っている。 具体的な活動としては,スターリン時代におけるスポーツや探検の状況についての,概括的な研究を行った。その上で個別の事例として,北極探検家パパーニンについて,彼が文学的なテクスト(偉人伝や詩)の中でいかに表象されているのかを検討した。この活動を行うにあたっては,3月後半にモスクワのロシア国立図書館において,日本では入手困難な文献資料を調査している。また,京都において開催された日本ロシア文学会で,情報交換を行った。 その他,数年来の課題としてきた精神分析やメディア研究の理論をソヴィエト文学研究に応用し,論文「フロイトとパヴロフ,あるいは言語と身体」として発表した。これは昨年度までの研究成果を,論文としてまとめたものである。
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