研究課題
本年度は、まずMary Wollstonecraftの言説にみられる感受性文化の影響を洗い出した。いわゆる理性的非国教徒(Rational Dissent)の影響が濃厚であるというWollstonecraftであるが、実際のところ感受性文化の枠組みのなかで著作を書き、そして感受性の言説を取り込んでいったことは否定できない。矛盾する理性的非国教徒の言説と距離をとりながらも、その思想を咀嚼し、感受性の言説によって表現しようと試みた形跡が彼女の小説には明確に浮かびあがっている。特に初期の自伝的な小説Maryは、感受性の言説が慈善の思想と絡み合いながら、やがては理性的非国教徒の急進的な思想へと接点を結ぼうとする経緯が見られる。それはあまりに未分化なものであることも事実だが、しかしその未分化な言説こそ、感受性文化に育まれ、その言説と思想を原動力としながら慈善活動をし、公共圏へと参入しようとしていた同時代の女性たちの状況を象徴している。その後、感受性の言語を女性詩人たちが全体的にどのように取り込みながら、ロマン派男性詩人たちの言説と距離を取ろうと試みたのかを、特に慈善にかかわる言説、1790年代の奴隷貿易廃止運動に関係する言説を中心に考察した。女性たちは自らの文学的伝統がない状況において、感受性の言説に依拠しながらも、慈善にかかわる言説を著すことで公共圏に参入しようとしたのである。しかし、その試みには常に「公共圏の不安」が付きまとっていたことも事実である。最後は感受性の文化の枠組みのなかから慈善活動を歴史的な見地から俯瞰した。宗派や社会的に異なる階層に属する女性たちが慈善活動という特殊な領域において協働をなしとげた。しかし一方で、彼女たちの言説には互いの利益と信条の齟齬に対する不安と緊張が含まれている。その曖昧な関係が18世紀末の女性の感受性文化と慈善の関係を象徴している。
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Studies in English Literature 48号
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