研究課題
今年度の研究実績は、おおむね以下の3点にまとめられる。(1)ゲーテの作品に反映された「水」や「大気」のモティーフについて:まず6月にデュッセルドルフで行ったドイツ語講演で、ゲーテの悲劇『ファウスト』第二部における海の祝祭場面を取り上げた。この講演内容は、直ちに論文にまとめ公表した。次いで18・19世紀の地球生成理論における《玄武岩論争》に注目、ゲーテおよび彼と同時代の天文・地質学者の動向を整理した。さらにゲーテも関与した《迷子岩・漂石》の由来についての仮説、および19世紀半ばの《氷河期の発見》にまで研究対象を拡大した。また地球生成論と関連するキーワード《世界の複数性》の変遷についても概観した。加えて昨年度から継続していたH.J.クロイツァー氏の著作『ファウスト;神話と音楽』の翻訳(作品解説も含む)を完成させた。本書は西欧近代の神話ファウストを文学と音楽の両視点から概観するとともに、近代科学史にも配慮しており、本研究とも関連が深い。(2)自然研究者ゲーテの公的活動と自然科学への貢献について:イェーナ大学監督官としてのゲーテを調査していく際に、同大天文台の業務と平行して、彼の解剖教室への関与にも注目した。これについては昨年度行った研究発表を独語論文として公表するとともに、研究対象の視覚化・再現化という問題として再度取り上げ、6月に「人体情報の記録近代ヨーロッパおよび日本における解剖図・標本・立体模型」というテーマで講演を行った。また8月にはドイツ・ヴァイマル/イェーナを中心に研究滞在を行い、ゲーテとハワード、および近代気象学に関する文献収集を行った。(3)自然科学者の観測ネットワーク形成について(調査続行中):ヨーロッパ全土に拡大していく気象観測網の提唱・整備についても調査を開始、19世紀の天文学者が中心となって行った子午線観測および三角測量に注目した。気象学の成立には、予想した以上に測量網整備をはじめ、火山観測や地磁気の測定といった天文学・地学の諸問題が複雑に絡み合っていることが判明した。うち仏・独天文学者を中心にした測量ネットワークに関しては、10月末の講演「地球を測る;フランス大革命期の天文学者達」として中間発表を行った。また今年度最後の3月中旬からは、デュッセルドルフのゲーテ博物館で3週間研究滞在し、L.ブーフやA.v.フンボルトの一次文献およびライン地方の三角測量資料を調査し、さらに気象学成立の時代背景を再構築するのに重要な手がかりを得た。
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単行本 : Universitatsanspruch und partikulare Wirklichkeiten; Natur- und Geisteswissenschaften im Dialog Hg.v. (N. Kimura/K. Moser von Filseck ) (Wurzburg/Germany)
ページ: 243-250
単行本 : 『生命と自己;生命の教養学 II』(武藤浩史編集)(慶應義塾大学出版会・東京)
ページ: 224-248
物理科学雑誌『パリティ』(東京・丸善) Vol.21 /No.9
ページ: 13-19
『藝文研究』柴田陽弘教授退任記念論文集 91巻・2号
ページ: 199-212
日吉紀要;ドイツ語学・文学(慶應義塾大学) 43号
ページ: 17-38