研究概要 |
本研究は、焦点を1840年から1900年までに絞って、当時の様々な社会問題(労働形態の変化、南北戦争、女性の社会進出、移民の急増など)と、読み物(小説、詩、雑誌、新聞など)の中に見られる障害者表象との関係に焦点を当てるものであるが、今年度は最終年度に当たるため、昨年度の目標であったジェンダーと障害との関係を引き続き考察することに加え、これまで取り上げていなかった人種問題と身体的・精神的障害について調べることを主な目標とした。Columbia Universityにおいて、これまで主な調査対象にしていたGodey's Lady's Book, Harper's Monthly, Atlantic Monthlyから、Knickerbocker, Centuryなど、19世紀後半に人気のあった定期刊行物の幅をさらに広げて調査した。結果、小説や詩の中に見られる障害の種類としてはblindnessとmental illnessが他より多く使われ、障害をもった登場人物としては、女性や子どもが多いことが分かった。戦争による負傷兵を中心としたテクストは意外に少なく、道徳教育、社会問題提起などのために、障害をもったキャラクターを登場させることが多いように思われた。また、人種が変わるとジェンダーと障害の問題は曖昧になる。今年度は特に、黒人障害者がマイナーキャラクターとして登場しがちな中で、実在の人物としていくつかのテクストで中心に据えられている、盲目でsavant syndromeであったと言われる黒人ミュージシャン、Thomas Greene Bethuneに注目した。同じ人間をテクストの中心に据えても、書き手によってその障害が驚異として描出されたり、人種問題に対する意識を読者に喚起する目的で使われたりという操作が自在になされていて、その背景を探ることを現在継続して行っている。
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