本研究課題の初年度にあたる本年度(平成17年度)の目的は、マカーマートという文学ジャンルの原典テキストを細かく読んだり、写本を調べたりするという、研究の最も基礎となる作業を行うことであった。これらの作業を土台として、来年度以降、論文や著書という形で研究成果を発表していくつもりである。本年度の研究の具体的な成果は、以下の二点にあると言える。1.ヘブライ語以外のマカーマートの原典テキスト(つまり、アラビア語、ペルシャ語、シリア語)を読み、比較分析のための準備をした。特に、ヘブライ語マカーマートと同様に、アラブ文化の影響下に生きるマイノリティ作家が生み出した作品である、ペルシャ語マカーマートとシリア語マカーマートを重点的に精読し、分析した。この結果明らかになったことで特に重要だと思われるのは、以下のことである。つまり、アラブ文学やヘブライ文学においてはマカーマートという文学ジャンルはかなり確立されたものであるのに対して、ペルシャ文学やシリア文学においてはマカーマートというジャンルは極めて周辺的である。本研究は、基本的にはマカーマートというジャンルに絞って四つの言語の文学を比較するものであるが、それと同時に、それぞれの文学内におけるマカーマートというジャンルの位置について、より深く調べる必要を感じた。特に、ペルシャ語とシリア語の場合は、このことが必須であることが分かった。2.ヘブライ語マカーマートの代表作である、アルハリーズィーの『タハケモ二』に関しては、既に十分分析し、批判的校訂本をほぼ完成させているが、その他の、よりマイナーなヘブライ語マカーマートをいくつか精読し、分析した。特に、7月にイスラエルのエルサレム・ヘブライ大学で調査を行い、共同研究者であるヤハロム教授とともに、これまで知られていない、作者不明のヘブライ語マカーマートの写本を発見した。これについては、今後校訂し、発表する予定である。
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