8月から9月にかけて、クック諸島とニュージーランドで調査を行った。クック諸島は、ニュージーランド先住民マオリがもと居住していた諸島であり、民族的・言語的に共通点が多いことから、ニュージーランドにおける先住民言語教育との比較のため、アヴァルア市内の公立小学校と私立中・高等学校を訪ね、クック諸島マオリ語と英語の授業を視察した。ニュージーランドでは1980年代前半に創設されたマオリ語トータル・イマージョンの幼稚園(コーハンガ・レオ)や小学校(クラカウパパ・マオリ)が、先住民言語と文化を守る新しい世代を育てつつあるのに対して、経済的な必要性から母語よりも英語の教育が重要であるクック諸島では、先住民言語教育のもつ政治性もかなり異なる。ニュージーランドのワイカト大学では、昨年に引き続き、マオリ学科の学生を対象として、アンケートを行った。また、マオリの先住民文化における医療(健康)の概念と土地や先住民言語の保持の問題との関わりを検討するため必要な資料を収集した。フィールド・ワークに必要なマオリ語の学習は、第3教程までA+の成績で終了した。4月にワイカト大学からTe Hiranga Maori(Certificate of Maori Studies)を取得する予定である。科研最終年度は最後の第4教程(上級)を終了する。 研究成果欄の論文は、先住民言語教育機関でのフィールド・ワーク及び筆者自身のマオリ語学習経験やワイカト大学で行ったアンケートに基づき、マオリの先住民言語教育、先住民メディア(マオリ放送)、先住民文学という三つの局面におけるポストコロニアル文化の形成について論じている。 今年度は、そのほか、フィジーのインド系移民のエッセイや小説、ドキュメンタリー、クック諸島マオリ語と英語で書かれたクック諸島の詩集、オーストラリア・アボリジニの小説などを読んだ。
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