初年度にあたる平成17年度は、文献の収集および調査を中心に研究活動を行い、全体のパースペクティブを得ることで研究基盤の確立につとめた。 まず、宝巻および弋陽腔に関する研究資料のうち、未見のもので関東及び関西地区に蔵される分については閲覧・収集につとめ、計上予算によって購入したパーソナルコンピューターやスキャナー、関連図書などの設備や記録メディアを用いて資料の分析・検討を行った。現地調査に向けた連絡調整も順調に進め、また上演状況についての文献調査もほぼその基礎的作業を終えた。 なおそうした文献整理の過程で、宝巻に隣接する芸能である道情の伝播と弋陽腔の関連、およびそこで行われる神仙説話について新知見を得、一部を2005年12月に開催された道教文化研究会例会で「道情の上演形態と演劇化」として口頭発表を行った。これは韓湘子を中心とした八仙物語をとりあげ、テキストの比較検討や音楽面での分析によってその上演形態や伝播状況についての初歩的な分析を行ったものである。これについては増補する形で平成18年度に中国で開催される国際学会「山西長治賽社与楽戸文化国際学術研討会」で発表することが決定したため、さらにその後入手した資料なども考察の対象に加えた予稿の準備を年度末にかけて行った。この他、韓湘子以外にも弋陽腔演劇における観音説話の流布と、宝巻における土地公物語の演変についても考察をすすめた。 また、本年度は収集した文献資料のデジタル化も開始した。まずデータの一次取り込みを依託し、これを加工する形で整理をすすめて研究に供するとともに、研究終了後のデータベース構築・WEB上での公開に向けた作業にも着手している。 平成17年度においては、以上の研究活動を通じ、中国南方の祭祀芸能における神仙説話についてその上演状況・受容および民間信仰との交渉をめぐる問題の分析検討の基礎的研究を確立しえたといえよう。
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