21世紀以降の同時代中国における様々な文化・社会現象について、広範な見取り図ともなる基礎研究資料『Chinese Culture Review(中国文化総覧)』vol.1・2(原著『21世紀中国文化地図』広西師範大学出版社)を翻訳・出版し、今後のこの分野における研究情報プラットフォームの構築につとめた。現在、vol.3を翻訳中であり、今後ともこの構築作業は継続の予定である。 また具体的な分析・研究としては、論文『李修文『泣きぼくろ』に見る村上春樹受容の一端--SMをめぐる綺想』を発表し、中国における村上春樹受容のあり方が日本とは異なり、性描写・性的関係がクローズアップされていること、村上春樹に限らず広く日本のテレビドラマやアダルト映画のイメージがクロスしている可能性が高いこと、ひいては同時代中国における日本イメージがそうした性的関係を巡るロマンスの中で生産・消費されている可能性があることについて論じた。こうした性的要素を含むロマンスという文脈の中で、村上春樹のみならず、渡辺淳一なども村上と同列に読まれている可能性が高いとの認識を得るに至った。村上春樹を初めとする日本文化の受容については、同時代中国における若者向けライトノベル市場と読者層が重なっている可能性があり、今後、こうした中国の読書市場との関係、青年読者層の社会的・文化的実態についても調査・考察していく予定である。 こうした1年間の研究成果を踏まえ、今後も20世紀末から21世紀にかけて大きく変化した中国読書市場についての基礎資料収集・分析を進めていきたいと考えている。
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