今年度は、主に日本近代文学館「武田泰淳コレクション」の分析を行った。「武田泰淳の未発表翻訳原稿について」(『近代文学 研究と資料』第2次第1集、2007年3月)、および『日本近代文学』第77号(2007年11月)に発表した論文「武田泰淳的リアリズムの生成-小説『秋風秋雨人を愁殺す 秋瑾女士伝』の方法-」は、その成果の一部である。前記コレクション中の中国経済史関連未発表翻訳原稿の意味を探る過程で、大学時代の泰淳の中国雑誌『歴史科学』への投書を入手。日本ではこれまでその存在すら知られていなかったため、日本語に試訳し、「『進歩的科学者之国際的握手』-大学生武田泰淳の中国雑誌への投書-」(『近代文学 研究と資料』第2次第2集、2008年3月)で紹介した。目下、関連論文の執筆中。1933年に北京で発行された『歴史科学』の主要メンバーは東京高等師範学校などへの留学経験者であり、泰淳投書について考える場合、日中学術交流史という視点、さらに泰淳が在学していた東大支那哲学支那文学科を中心とする、1930年代以降の日本における中国研究をめぐる状況の分析も必要となる。東大支那哲学支那文学科関係者も多数モデルとなった所謂中国問題小説『風媒花』については、2007年12月、「中国三十年代文学研究会」において、口頭報告「『自画像』、あるいは『新・儒林外史』-武田泰淳『風媒花』試論-」を行った。論文・翻訳としては、今年度は他に以下ものを発表。「武田泰淳と『中国』-その文学の始発期をめぐって-」(杉野要吉編著『戦中戦後文学研究史の鼓動-その一側面-』2008年3月)/丸尾常喜著・郭偉訳「『阿Q正伝』再考-関於「類型」」(『魯迅研究月刊』2007年9期、中国)/佐藤泉著・郭偉訳「解読"国民文学論"-戦後評論的元歴史、近代記憶之場與教科書式文学史之来源」(『新文学』第7輯、2007年11月、大象出版社・中国)
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