本研究は、カウンセリング場面において専門家とクライアントが互いの発話をどのように解釈し、その結果として相互行為の展開にどのような影響が現れるのかを解明することを目指している。特に、1)専門家がクライアント自身の体験や感情の語りについての解釈をどのように自分の発話に反映させ、そのことがその後の相互行為の展開をどのように方向付けるかを実証的に検証し、2)そうしたカウンセリングの協同構築という活動のうちに埋め込まれた様々なレベルの「制度性」を洗い出すこと、この2つを目的とする。 本年度は、すでに収録している婦人科の医療的カウンセリング場面の分析を中心に研究を進め、現在、得られた知見をまとめた論文を執筆中である。この論文では、一見、専ら医療者のための記録として診療中に書き込まれるカルテなどの記録媒体が、注視や指差しなどの動作によって、患者の語りによって提供された情報を構造化し協同的に利用するための資源として相互行為の組織に組み込まれ、カウンセリング活動の展開に決定的な役割を果たしていることを明らかにする。さらに、患者の過去の拒食症の経験が、このカウンセリング場面に導入され、中心的なトピックとなり、「心の問題」と現在の身体症状とが結び付けられていく過程を詳細に分析する。 また、同じデータの中で、患者が用いる「ええと」という表現に注目し、「ええと」が単に「思案中」であることなど認知的な操作の状態を示す標示であるだけでなく、相互行為秩序の維持装置として働いていることを示した論文を執筆した。(「相互行為秩序維持装置としての「ええと」」『津田葵教授退官記念論文集言語と文化の展望』英宝社所収) なお、19年度に向けて新しいリサーチサイトを開拓するべく、現在、関係者に協力を依頼している段階である。
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