タイにおいて話されているロロ諸語(チベット・ビルマ語派の下位グループ)の1つであるリス語の調査・研究をフィールドワークにもとづいて行った。調査地はタイ国北部チェンマイ郡メーテーン郡にあるリス族の村である。調査期間は、2005年8月に18日間、2006年3月に20日間、合わせて38日間である。 調査前に、言語の調査・分析に必要な録音機器・録音媒体等を購入した。特に、今まで所有していたものより高性能のコンデンサーマイクと、Hi-MDおよびDATの使用により、今までより質の高い音声データを収集することができた。 今年度の調査の内容は大きく文法調査と語彙調査に分けることができる。 文法調査においては、まず、「姑と二人の嫁の話」および「孤児の話」の文字起こしをインフォーマントとともに行った。2つの物語の長さは合わせて24分である。この2つの物語および今までに文字起こしが完了している物語からのデータを中心に、詳細な文法調査を行った。特に、関係節、副詞節、名詞節などの従属節と、動詞連続や助動詞などの動詞句に関するデータが不足していたので、それらを中心に調査を行った。 語彙調査については、次年度に予定していた、リス語の辞書作成のための調査を前倒しして行った。リス語の語彙には年齢による変異が比較的あり、その実態を明らかにする目的で、今までデータがなかった1990年代生まれおよび1970年代生まれのインフォーマントの基礎的語彙の調査を行った。この結果、多くの単語において、きしみ声を伴った声調が失われていることが分かった。また、動物名および植物名の調査を、動物図鑑および植物図鑑を用いて、老齢のインフォーマントを中心に行った。
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