昨年度に引き続き、述部先行型の言語(チャモロ語)と述部後行型言語(日本語)の研究を行った。まず、日本語の基本構造についての研究を行った。昨年度の研究により、日本語の目的語は動詞の補語の位置より格を認可される統語的位置に常に可視的に移動している、という仮説を構築したが、今年度はそれをさらに進展させ、主語の統語的位置に関しての研究へと焦点を移行した。その結果、日本語の主語の格の照合位置への移動は可視的である場合と不可視的の場合がある、という仮説を構築するに至った。これらの仮説の検証を多角的見地より行い、その研究成果を第31回関西言語学会シンポジウム「Some Issues in Japanese Syntax」において発表した。また、チャモロ語の句構造に関する研究に本格的に着手した。チャモロ語における主語と目的語の統語的位置関係に関する研究が中心であったが、重要な研究成果が2点あった。(A)主語の統語位置について。Chung(1998)の仮説の検証を出発点とした。Chungによれば、動詞句内に基底生成された主語は格の照合を受ける統語的位置(TPの指定部)へ可視的に移動し、さらにその位置より動詞句内へ可視的に下方移動する(subject lowering)と提案されているが、今年度の研究の結果、主語の特性は下方移動操作を仮定せずに捉えることが可能であり、従ってチャモロ語の主語は派生の最初から最後まで常に動詞句内にとどまって場合もあるという仮説が有力になった。(B)目的語の統語的位置について。日本語の主語の場合と同様に、チャモロ語の目的語は可視的に動詞句の外へ移動している場合と不可視的に移動している場合があるという仮説へ到達した。この仮説によれば、定目的語は可視的に移動し、不定目的語は不可視的に移動していることになる。これらの新たな仮説にもとづいた研究成果を論文にまとめているところである。
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