今年度は主に19世紀の音訳語の状況について調査研究を行った。具体的な内容は以下の通り。 A.外来語のうち特に音訳語に関する研究を進めた。 (1)音訳語の基礎となった中国語方言を判定する方法論を考察した。ある文献に見える音訳語の基礎方言については感覚的な印象に基づいた憶測が少なくない。音訳語研究の基礎作業として、対象となる音訳語がどの方言に基づいて創造されたのかを確定する必要がある。その方法論を用いた実際の分析も試みた。 (2)中国語における音訳外来語の導入経路を再検討した。中国における東西言語文化交流史という大きな流れの東側で渦巻いた漢字文化圏内部の言語文化交流、具体的には日本から中国語への外来語導入を対象とした。日本から中国へ語彙が流入していく現象はこれまで意訳語にのみ認められてきたが、それが音訳語にも見られたことを指摘し、意訳語と音訳語を截然と区別し前者にのみ漢字文化圏内部の移動があったとする見方を修正する必要性を示した。 (3)澳門での国際シンポジウム研究発表・学術交流をもとに音訳語研究を海外へ紹介した。 B.音訳語に関連する来華宣教師たちの残した中国語方言資料を調査、研究した。 (1)音訳語の基礎方言の問題に関連し、海外での資料調査を元に19世紀イタリアで学ばれていた漢語教科書を発見した。そこに反映した音系の詳細な特徴については近日中に公表する。 (2)音訳語の基礎方言および外来語に影響した来華宣教師の活動に関連し、20世紀初頭の四川方言音系に関する研究を共編にまとめた。 C.東京、大阪および韓国・ソウルにおいて国際シンポジウムに参加し、研究成果の発表と学術交流を行った。
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