本年度は、3年計画の最終年度で、これまでに調査したデータを整理し、成果報告書となる文法、テキスト、語彙集の3点を含む冊子体の成果物を作成した。文法の部分は、音声・音韻体系、品詞、格、他動性、テンス・アスペクト・モダリティ、ディスコースなどについて記述した。語彙は、約1000語収録。また、グロスつきの物語(40分)を1点収録した。 本研究を通じて、判明したことは、ネパールのメチェ語は、インドアッサム州からベンガル州に広がるボド族と同系統の言語であり、また、両者の相互理解率がボド語支に分類されるその他の言語と比較してかなり高いことから、メチェ語とボド語は方言の関係にあるということを結論付けた。メチェ語は、西部ボド語と呼んでも良く、分布としては、インド・西ベンガル州のボド語もメチェ語と同じである。 本研究で明らかになったメチェ語の特徴をいくつか挙げておく。ボド語はhigh/lowの声調が認められるが、メチェ語では成長の差がはっきりとしていない。逆に、ボド語で声調の違いで表されるものが、平音と反り舌音の対立になっている語がある。メチェ語の形容詞は、動詞からgV-などの接辞によって派生されるものが多い。状態変化を表す動詞はすべて自動詞である。メチェ語では形態的に否定の接辞を分離することができない。これまでボド語で格標識として扱われてきた接辞の機能は、メチェ語においてはよりディスコースを反映するマーカーとして文法化していると判断した方が妥当であること、状況の変化を表すch∂iというマーカーや、否定的状況の成立を表すleやkh∂h∂iなどのマーカーがある、などの特徴が明らかになった。
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