平成17年度は、琉球語諸方言による芸能や語りの分析などを通して、琉球語テキストの正確な記録と継承のありかたについて考察した。琉球列島の各地において、琉球語諸方言への理解度が低くなり、地方においては過疎による人口減少も相俟って、祭りなど行事においても、自らの記憶により発話するのではなく、紙媒体や録音テープ媒体で、祈り、語り、歌などの表現を済ます場合も出てきている。口伝のみの継承に危機感を覚えた人々が、こうしたものの記録を精力的に行なっている。しかしながら、こうした琉球語による芸能や語りの記録はいくつか存在しているものの、琉球語諸方言の発音を正確に写し取っていないケースも多い。音声学的・言語学的に見ても遜色のない、琉球語諸方言の厳密な記録が求められている。そこで、筆者は、今までの記録して残っているテキストを、ネイティブスピーカーの話者に、読んでいただいたり、自身の方言に翻訳していただいたりなどして、言語学的に正確な記録を残すことを試みた。与那国方言の研究では、民謡に残っている与那国方言と日常の与那国方言との間にある違いを考察した。波照間方言の研究では、地元の祭りにおいて演じられる地元方言による狂言について、既成のテキストを参考にしながら、波照間方言の話者に質問しつつ、言語学的により正確な記録と翻訳を目指した。宮古方言の研究では、宮古方言の話者の協力を得て、人口に膾炙した宮古の民話を宮古方言に翻訳していただいた。そして、その民話にゆかりのある地域を訪れて写真に記録した。首里方言でも、民話の語りと季節の挨拶言葉を話者にお願いし、その発話シーンをビデオ撮影した。現在、これらデータの整理中である。平成18年度も、前年度に引き続き、まとまったテキストを見つけ出して、ネイティブスピーカーとともにテキストの作成と解析を行ない、琉球語表現の可能性探っていきたい。
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