大阪南部域を代表して南河内出身の高年層35名、中年層3名、若年層23名、計61名を対象として、京阪式音調の音調幅に関する発話調査を行った。昨年の大阪北部域出身者における同様な調査の結果と比較して特に注目すべき点は次の点である。つまり、大阪北部域出身の高年層よりも大阪南部域出身の高年層の方が、F0曲線の高低差が大きい点と共に、そのF0傾斜度も大きいという点である。なお、F0傾斜度は最大F0値から最小F0値を引いた値をその両者の区間の時間差で割ることで算出され、この傾斜度において最も南北差を顕著に認められるのは、高起式無核語が2文節から4文節続く文の読み上げにおいてである。また、上記の現象と対応するように、拍内下降現象が、大阪北部域の高年層においては70代女性でも確認できなかったが、大阪南部域においては50代以降80代までの男女に安定的に確認できた。上記の点より、両地域における京阪式音調の音調幅の特徴に関して大阪北部域よりも南部域の高年層の方が、より古代平安期の特徴に近いF0曲線の高低差、F0傾斜度を維持している可能性を指摘できる。今後、来年度にかけて、その地域差の背後にある社会言語学的要因も含め、より詳細に分析を進めていきたい。以上、この研究の基準点になるべき点に加え、両地域における若年層においても、北部域よりも南部域において、よりかつての京阪式音調の音調幅の特徴を維持している可能性を指摘できる。その他、昨年に引き続き、京阪式音調の音調幅に関する知覚調査も69名を対象にして行った。発話調査、知覚調査それぞれの分析を急ぐと共に両者の対応関係についての考察も来年度にかけて深めたい。
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