研究概要 |
本年度は研究期間の初年度に当たり,古代語の複数を表す名詞性接尾語の研究と,近世の副助詞研究に関する研究の2つを計画し,実施した。研究業績は以下の通りである。 (1)口頭発表「複数について-接尾語「ら」を中心に-」萬葉学会第58回大会(2005年10月,同志社大学) (2)口頭発表「『あゆひ抄』の副助詞研究」東アジア日本語教育・日本文化研究学会2005年度国際学術大会(2005年11月,別府大学) (1)は、上代語の複数を表す接尾語「ら」を中心に,同じく接尾語である「ども・たち」と,重複形(「人々」など)・無標形(「人」など)を対象とした考察で,古代語の名詞性の複数表現全体を扱ったものである。まず,「ら」の表す用法を細かく観察し,大きく複数と多量に分けられることを述べ,それを踏まえて,「ら」は数ではなく量を表す形式と見られることを指摘した。次に,「ら」と比較することによって,「ども・たち」・重複形・無標形の特徴を詳しく考究し,従来"複数表現"として概括されていた諸形式の差異を明らかにした。そして最後に,この研究が,高度に発達した中古の副助詞を研究するための基礎となることを確認した。 (2)は,近世の富士谷成章の著作『あゆひ抄』が,現代「副助詞」と称されている語群をどのように把握し記述しているかを読解したものである。従来も個々の副助詞に関する『あゆひ抄』の記述は参照されてきたが,この研究では,まず副助詞の分類・配列の仕方に着目し,次に個々の記述を精読し,『あゆひ抄』が副助詞相互の関係を捉える体系的な視点を有していたことを指摘した。副助詞は現在でも体系的な研究が十分に行われていないが,『あゆひ抄』は先駆的な研究を提示している。また,副助詞に数量的性格を見出しており,この点でも注目されることを述べた。
|