研究概要 |
本年度における研究の業績は以下のとおりである。 (1)雑誌論文「原因主語他動文の歴史」『筑紫語学論叢II』(筑紫国語学談話会編,風間書房,2006年5月) (2)口頭発表「近代語における述部の構造変化と文法化」(平成18年度九州大学国語国文学会,九州大学,2006年6月) (3)雑誌論文「2004年・2005年における日本語学界の展望:文法(史的研究)」『日本語の研究』2巻3号(日本語学会,2006年7月) (1)は,「父の死がジョンを悲しませた」のようなタイプの文を「原因主語他動文」と呼び,その歴史について考察したものである。日本語の他動文には非情物主語は立ちにくいとされ,上記のような文は「非固有」のものと言われることがある。しかし,「泣く涙衣濡らしつ(万葉集)」「若菜ぞ今日をば知らせたる(土佐日記)」のように,若干の例が認められる。近代の欧文翻訳において発達したのは事実であるが,既存の「発想」に基づき,用法を拡張させたものであるといえる。「非情の受身文」を裏側から見たもので,ヴォイス研究における新しい試みである。 (2)は,昨年度に行ったシンポジウムおよびワークショップでのキーワードであった,「構造」と「文法化」の2つをテーマに据え,中世から近世にかけての「ゲナ」を中心に考察したものである。この成果は,青木博史編『日本語の構造変化と文法化』(ひつじ書房,2007年6月刊行予定)として,論文集の形で発表する予定である。 (3)は,最近2年間の日本語文法史の分野における学界展望である。文法の「体系」と,歴史的な「変化」を意識して行われた研究を特にピックアップし,文法史研究の動向と将来の課題について述べた。
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