研究概要 |
本年度における主要な研究の業績は以下のとおりである。 (1)論文「近代語における述部の構造変化と文法化」『日本語の構造変化と文法化』(青木博史編,ひつじ書房,pp.205-219,2007年7月) (2)発表「文法化と一方向性の仮説-文献資料と現在方言の「オル」の解釈をめぐって-」(第1回形式語研究会,国立国語研究所,2007年9月) (3)講演「文法形式から見た文体」<リレー講演:文章・文体研究へのアプローチ>(平成19年度京都府立大学国中文学会,ルビノ京都堀川,2007年12月) (1)は,自身が編者を務める論文集に収めたもので,「構造」「変化」「文法化」の3つのキーワードに基づいている。現在九州方言における「ゲナ」は,活用語終止連体形に下接するモダリティ形式として働くが,古典語においては動詞連用形に下接する。「動詞連用形+ゲナリ」という「語」から「文相当句+ゲナ」へ,という構造変化が起こっており,この変化の様相と要因について他の述語形式を視野に入れながら述べた。 (2)は,現在の関西方言で卑語的に用いられる「オル」について,歴史的観点から考察したものである。通説では中古以降「ヲリ」が卑語化したとされるが,中世末期の抄物資料には卑語化していない「オル」が多く用いられる。さらに補助動詞「〜オル」はアスペクト形式として発達しており,現在西日本方言とつながっている。卑語化したのは中央語の「〜テイル」との接触によるものであり,したがって近世以降と見るべきであることを述べた。 (3)は,文法論と文体論の接点について述べたものである。文体論研究は,語彙を指標とした統計的手法にその深化の跡を見ることができるが,文法形式を手がかりとして文体を考えることもできるはずである。そのような新しい研究の可能性について述べたが,このテーマについては20年度以降も引き続き考察していきたい。
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