研究概要 |
本研究の目的は、英語、ドイツ語、日本語における様々な時の副詞(句、節)の解釈を比較し、その類似および相違点がどこまで英語vs日本語・ドイツ語というスキーマに当てはまるかを検証し、またその違いが時制・相の体系のどのような違いに由来するかを明らかにすることである。本年度は、日本語の「まで」の特殊性に着目し、時の解釈を受ける「まで」に加え、空間解釈(「東京まで」等)や順列解釈(「3番目まで」)を受ける「まで」の意味や統語環境を考察した。これらの意味には共通点が見られるが、それを形式意味論的に捉えるには従来の「まで」の意味論では不可能であると論じた。そして「まで」を文の焦点に影響を受ける尺度不変化詞と定義しその意味を提案した。(University of Carolina, Spring Colloquiumで発表。)この理論は、時・空間解釈の「まで」(格助詞の「まで」)を取り立ての「まで」と同等に扱うことを意味し、歴史的に2つの「まで」を」区別してきた日本語学の見地からも興味深い結論と言える。ドイツ語bisは時・空間の両方の解釈を持つ点で「まで」との類似が見られるが、順列解釈など統語的項の位置にあらわれることはない。このことから、bisは文法的には前置詞とみなされ、日本語の「まで」と同様に取り立ての不変化詞と扱うことには一見不都合があるように思われる。しかしuntilを尺度不変化詞に類する意味的範疇として扱う試みはすでになされており、ここに意味論と統語論の不均衡が見られる。今後の研究ではこの2つのずれの意味を探って行くことにする。
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