本研究の目的は、英語、ドイツ語、日本語における様々な時の副詞(句、節)の解釈を比較し、その類似および相違点がどこまで英語vs日本語・ドイツ語というスキーマに当てはまるかを検証し、またその違いが時制・相の体系のどのような違いに由来するかを明らかにすることである。本年度は、英語・日本語・ドイツ語の時の副詞節における依存関係を検証した。その結果、(i)時の副詞節の境界を超えた量化子の作用域の拡張、および(ii)副詞節にさらに他の節が埋め込まれた場合の長距離依存に関して、英語はこれらを許容し、日本語・ドイツ語は許容しないということがわかった。(i)に対しては、これまでの意味論的アプローチに反対する立場を取り、節の移動によって量化子の依存関係が捉えられると主張した。束縛変項に関わる事実もこの分析を支持するものである。また(ii)に関しては、従来の長距離移動に関する制約ではなく、時の量化子そのものの分布が日本語・ドイツ語では制限されている可能性を示唆した。またこの分析は、英語vs日本語・ドイツ語の相違を説明するだけでなく、英語において時の副詞節とそれ以外の副詞節(理由や条件節など)における(i)や(ii)の振る舞いの違いを同時に説明できると論じた。 類型論的に近いと言われている英語とドイツ語であるが、時に関する表現を見ると多くの相違点を見出せるだけでなく、ドイツ語が特徴的に英語と異なる場合には類似の現象が日本語で観察されることはとても興味深い。本研究は、その源を見出すことは目的としていなかったが、より多くの類似点を観察し、その理論的解明を行ったことで、その答えに至る理論に貢献できたと考える。
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