本研究は、異なる文化背景や言語背景を持つ人々と共生する社会をいかに実現していくかという多文化共生の観点を基盤として、日本語母語話者と非母語話者が相互に学習することを期待し同じ立場で参加して対話する機会を持つ「混成クラス」を研究対象とし、活動を検討し改良していく示唆を得ることを目的として、現場の相互行為を分析するものである。 本年度は、まず「大学の日本事情教育での日本人学生と留学生の混成クラス」半年分授業の録画データについて、文字化作業・文献での分析理論枠組み探索・データ分析を行った。成果としては、ディスカッションの中に現れる母語話者と非母語話者としての非対称性と力の行使に注目しエスノメソドロジーの会話分析の視点から分析した結果、その場に違和感無く浸透している非対称性が存在すること・その非対称性と力の行使が繋がっているという結果を得た。そして論文を発表し、混成クラス実践者と参加者に対して、誰もが行いそうなありふれた行為が権力作用につながっているという自覚と、微細な権力行使へと巻き込まれる警戒感を喚起した。 次に「地域日本語教育での日本籍住民と外国籍住民の混成クラス」について、録音データ文字化作業を行い、本研究対象以外の現場の見学も行った。その上で上記「大学での混成クラス」のデータと比較しながら分析考察を行った。成果としては、大学や地域という実践フィールドの差異を超えて混成クラスのディスカッションに現れる参加者のカテゴリー化実践(何者として会話するのか)について、多文化共生を実現していくための手がかりを得た。具体的には、「日本人/外国人」というカテゴリーに収斂していく会話の仕組みとそこから外れて多様性を呈する仕組み、また「日本人」「外国人」カテゴリーが衝突し融合へとつながる会話の仕組みについて分析考察を行った。成果の一部を所属機関の報告書に記したが、今後も継続して成果を発表していく予定である。
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