本年度は、昨年度の研究成果の一部としてまず、「ブラジルにおける日本語教育の変遷と現状:日本語教科書の変遷を中心に」というテーマで、日本語教育学会研究集会平成18年度第1回研究発表会(於:鹿児島大学、2006年6月10日)で発表した。発表では、ブラジル移住開始から現在までの約100年を7期に分け、各時代における日本語教育の位置づけと、教育理念のパラダイムシフトについて、教育現場で使用される日本語教科書と関連付けながら考察を行った。ブラジル日系社会における日本語教育研究については、従来、その多くが日系子弟への国語教育的な日本語教育への批判であったが、そこには移民社会における言語のあり方や教育を取り巻く社会的状況の把握・認識、それらを通時的に考察する歴史的視点が欠如していること、そもそも海外の日本語教育研究においてブラジル日系社会についての言及は極めて少なく、日本語教育史研究の遅れを指摘せざるを得ないことを述べた。 また、研究成果の一部をまとめた研究論文「ブラジルの日系社会における言語の実態-ブラジル日系人の日本語を中心に-」『国文学解釈と鑑賞』71-7、「ブラジル日系社会における言語状況」『ブラジル特報』1574号では、ブラジルの日本語教育を論じる際に不可欠な日系社会における言語状況について、単なる共時レベルでの言語記述ではなく、ブラジルの日系人コミュニティにおける言語接触の実態について行われてきた全国・地域別実態調査のデータと、日本語新聞・雑誌・文芸誌などエスニックメディアにおける日系人らによる日本語・日本語観の記述資料、さらには紆余曲折する社会情勢の中で行われてきた日系子弟教育のあり方・理念の歴史的変遷といった通時的観点を踏まえながら論じた。
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