ブラジルへ渡った日本人移民が築き上げた日本語教育の場は日系社会にとって唯一無二の遺産である。ここでの日本語教育が途切れることは、日系社会にとって深刻な問題だ。しかしながら、近年、居住環境の多様化や経済的な問題などで日本語学校がその社会に直接影響を及ぼすことが少なくなったり、日系の日本語学習者が減少したケースがしばしば伝えられるようになった。そのため、この現状をふまえた社会的・歴史的分析と解決策の提案が急務となり、本研究では「居住地」と「出自」の2つの視点を研究の中心として、3年間の研究活動を行うこととした。 そこで、初年度は、主に「居住地」という視点に研究の中心を据え、2度の訪伯を試み、5つの州にある日系団体が運営する約20の日本語学校にて現地の教師や団体役員へのインタビュー活動を行った。そして、各学校の歴史や学校が地域に果たしている役割、現在採用されている日本語の教育内容などについてその詳細を調査するとともに、全ての学習者の学習動機や学習年などについてのデータの提供を依頼した。また、現地教師が集う研修会に数回参加する機会を得、多くの教師たちと親交を深めると同時に、貴重な情報の入手や学校訪問の交渉を行うこともできた。さらには、様々な研究機関や日系団体への調査協力の依頼や、資料館や図書館、書店での資料の収集も行った。今後はこれらの活動で明らかになった事柄をまとめ、学会や研究会などでも積極的に報告していくつもりである。
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