ベトナム社会主義共和国の言語状況を広く捉えるために、マスメディア・文芸とベトナム語、教育とベトナム語の視点に立って、現地調査および文献整理を行なった。 マスメディアについては、マスメディア法とプレス年鑑を素材にして、報道におけるベトナム語と少数民族語の使用を分析した。少数民族語による報道は南北統一以前にも実施されているが、その内容は政府方針と政策の普及と文化保護の色彩が濃く、生活に密着した報道ではない。他方で、インターネットの普及により、海外在住ベトナム人による情報発信が一層盛んになった。こうしたサイトにはベトナム本国では既に目にすることがなくなった、旧サイゴン時代の正書法に基づくベトナム語表記を使用しているものがあり、ベトナム語正書法の変遷を辿る上で興味深い。 ベトナム語の教育に関しては、少数民族への「第2言語」としてのベトナム語教育、外国人対象のベトナム語教育の双方から迫ってみた。さらに、いわゆる「民族暴動」以降は、少数民族居住地帯で公務に就く幹部に少数民族語の学習と能力試験受験が課せられたとのことで、若手幹部から実情を聴き取り調査した。一方、外国人向けのベトナム語教育では、韓国人ベトナム語学習者およびベトナム人韓国語学習の激増に伴って、越韓および韓越辞典や教材の出版が隆盛したが、越日・日越では顕著な進展がないことが分かった。そこで、ベトナム人研究者の助言と協力を受け、ベトナムの主要な新聞を基礎資料に、頻出語彙およそ5000を選出した。これは、文字情報に限定されているものの、現在のベトナム人の言語生活を反映したデータであり、今後のベトナム語教育で役立てていくこととしたい。
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