人間はいかにして書物と対峙し、書物というモノをいかにして取り扱い、書物のなかから自らに資する情報をいかに取捨選択して取り込んでいったのかという、身体論・情報論としての読書史・書物史研究を日本中世史の分野において進めていくことを研究目的に、本年度においては、関連史料・関連図書を購入し、古文書・古記録に書きとめられた読書史的・書物史的記述の収集を行なった。また、絵巻物など絵画史料を調査し、日本中世の人びとが書物にいかにして接していたのか(どのような姿勢で書物に対していたのか)という問題について、図像学的なアプローチからも検討を進めた。 本科学研究費交付以前から進めていたものではあるが、戦国時代の武将伊達輝宗が天正二年(1574)に書いた日記である「伊達輝宗日記」の検討を科学研究費交付を受けてさらに進めることができた。この研究では、中世の武将がどのような意識で日記を記し、その日記を記した一年が彼にとってどのような意味を持ち、どのような状況のなかで具体的に日記が書かれたのか、日記原本は現在どのような状態で伝存し、原本の調査のなかから上記の目的を解明するためにどんな情報を得ることができたのか、などの諸点について考察を行ない、論文としてまとめた。 また、「身体行為としての読書」を研究するうえでの方法・目的について、文芸作品(『更級日記』)や絵画史料(『融通念仏縁起』)を素材に短文を発表した。このなかでは「何を読んだか」という関心ではなく、「どのように読んだか」ということへの関心を表明し、具体的な史料をもとに、身体行為としての読書を歴史的に考察するために着目すべき点などについての指摘を行なった。
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