平成17年度では、童子信仰が発生した歴史的背景について着目した。童子信仰は、平安時代末期に出てきた信仰であり、六道思想と深くかかわっている。そこで本年度は、六道思想の分析の中でも、特に『病草紙』に着目して研究を進めてきた。 「『病草紙』制作と後白河法皇の思想」(『日本医史学雑誌』)では、『病草紙』がどのような意味を込めて制作されたのか、ということについて論じた。本論文では、貴族たちは、六道の世界を現実的た問題として認識はしていなかったことを明らかにした。 「六道絵としての『病草紙』の異色性」(『年報日本史叢』)では、『病草紙』に描かれている病気について詳細な検討を加え、『病草紙』が写実的には描かれていないことを明らかにした。 「熊野牛玉宝印への信仰」(『古文書研究』)では、平安時代末期にとりわけ盛んに行われた熊野詣でに着目し、その儀礼において童子信仰がどのような役割を果たしていたかという点について分析をした。 さらに、2005年10月に行われた説話文学会で、「『病草紙』の制作意図」という題で研究発表をし、専門の先生方から多くのご教示を得ることができた。 また、イタリア、フランス、スロベニアなどのヨーロッパの国々における子どもへの信仰についても調査中である。キリスト教における子どもに対する信仰と日本のそれとは、直接的な関係はないものの、人間の子どもに対するイメージや信仰心には似通ったものがある。そこで、イタリア、フランス、スロベニアにおいて、天使についての文献を収集した。さらにヴェネチア大学、パリ大学、リュブリャーナ大学において講義・講演をし、多くの先生方からのご教示を得ることができた。
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