本年度は、中国大陸の政治的・文化的影響が台湾社会にどのような影響を与えていたのかを特に調査した。日本の植民地支配は、日本帝国内からの影響だけでなく、中国大陸の政治的な動きや第一次世界大戦以後の民族自立運動にも影響されている。このことは植民地官僚も理解していたため、台湾の場合は中国との政治的・文化的影響からの引き離しを進め、朝鮮半島においても民族自立への対応として文化政治が対抗措置として取られた。 また、第一次世界大戦後の民族自立の思潮に対して、植民地官僚と台湾人との関係について変化があったことが分かった。しかし、デモクラシーの伝播という要因は、台湾と朝鮮においては異なる対応を生みだしている。それは被支配者側が、台湾では自治運動と台湾議会設置運動という在来社会の保持を前提とした運動を呼び起こしたのに対して、朝鮮においては内地議会への参加を求める動きと間島・上海における抗日勢力の培養という運動を招いている。これは、日本の統治方針が、統治機構構造と現地社会への対応との組み合わせによって、多様化するという特徴を表わしている。 この多様性を引き出したのは、現地社会が民族性維持の欲求を持ったこと、および植民地社会に通じた官僚群が統治の便宜上、植民地社会に内在する規範を支配方式に組み入れたことによる。つまり、統治対象である植民地社会に対しても、日本の官僚はその社会に内在する規範を組み入れようとするという特徴を持つとともに、それがあくまでも日本帝国の統治の便宜に叶うことを求めるという限界性も持っていたのである。
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